「月刊 地域保健」「SNS保健指導向上委員会」合同企画 ニッポンの健康づくり 辻一郎先生 津下一代先生 インタビュー

「健康日本21(第二次)」を進めるにあたって、ポイントとなるものはなんでしょうか。

辻:僕はイメージ戦略も重要だと思います。健康への考え方を変えていかなければいけないですね。
例えば、たばこをやめる方法があって、たばこの害もわかっていて、でも吸っている人がいる。食事もそうです。塩分を減らせばこうだということがわかっていて、でも塩分をたくさんとっている人がいる。知識としてはわかっている、そこから先の変える方法もあるのに、変えない人できない人がいます。いま、世の中は2つに分かれていて、健康づくりをがんばる人と、しない人できない人に大きく分かれてしまっていると感じます。これがさきほどもいいましたが(地域保健11月号掲載予定を楽しみに……)、所得格差、希望格差、意欲の格差となり、そこから先、健康格差になってくるわけです。

健康でありたいと感じる人をどうつくっていくのかが、これからの大きなポイントになるのではないでしょうか。健康になりたいと思ったら、そこから先のノウハウは完璧にできています。知識としてわかっているけど、面倒くさい、やりたくないと思っている人たちが健康づくりへ動きやすくなるような、そんなムーブメントが必要です。

津下一代先生、辻一郎先生米国でいうと、たばこを吸う人はかっこ悪いというソーシャルキャンペーンで、たばこのイメージががらっと変わりました。他にも、週末はジョギングするのがエリートのあるべき姿というのが社会の共通認識となっています。
健康にいいからやるといって行動変容するのは、ごくわずかな人です。健康づくりは修行のように我慢しがんばるイメージが強いと思いますが、健康にかっこよさや“いけてる感”(笑)というプラスイメージを出していくと、トレンドになるわけです。
例えば、給食。給食には、以前は栄養のことだけでおいしくないというマイナスのイメージがあったかと思いますが、実はいまの子どもたちには、とっても貴重な栄養源ですよね。最近では、タニタの社食のレシピ本はベストセラーになって、丸の内にお店ができるなど、もうかる仕事といえるでしょう。そして、給食産業はやりがいのある職場、かっこいい職場というイメージがつくられていくわけです。

社会全体の健康志向は強まっていると感じます。うまく発想を転換させることで変わっていけるのではないでしょうか。

津下:対象者と面接できる「特定保健指導」は、大事にしてほしいと思います。健康に関心がない人、メタボで呼び出されて仕方なく来た人など、普段会えない人から話を聞けるチャンスです。どうしてメタボになったのか、生活習慣を変えられないのはなぜかという理由を話してもらえる。
話を聞いてみて対象者の多くが同じ要因だったら、それは環境要因なんですよ。社会環境づくりのヒントになります。対象者から得た情報から、地域みんなに共通する課題となるものを見つけ、地域の課題としていく。そうすると対象者個人の努力で行動変容してもらうのではなく、まちの健康づくりの視点で解決していけるのではないかと思います。
他にも個別の業務の問題点から、まちづくり全体に反映できることはたくさんあるのではないでしょうか。

個人の健康やまちの健康という言葉をよく使いますが、そもそも、いまの時代、健康とは何なのでしょうか。根本的な質問ではありますが、ぜひ先生方の考える「健康」とはなにかを教えていただけますか。

辻一郎先生辻:「幸せ=健康」だと思います。かつて、メンタルヘルスが重視されていなかったころは、血液の検査値で健康が決まることも……(笑)。医学的なデータでこの範囲に入らなければならないというのが、昔はありましたよね。
いま社会全体でメンタルヘルスのニーズが高まっているなかで、いちばん大切な健康の定義はなにかというと、主観的健康度が高いことです。本人が幸せだったり、生きがいを感じていたりすることこそが、健康だと思います。実際に、生きがいをもって暮らしている人は(生きがいのない人よりも)長生きしていることを、私たちは宮城県民を対象とするコホート研究で報告しています。
ソーシャルキャピタルという言葉を健康のキーワードとしてよく聞くようになりましたが、ソーシャルキャピタルとは、「人とのつながり」のこと。人は、人とのつながりのなかでこそ、幸せや生きがいを感じるのではないかと思うのです。孤独に生きている人は、たとえ体が健康な状態でも、健康と自覚できるでしょうか?
一人ひとりの主観的健康度を高めるという視点からも、人とのつながりを築き、まち全体の健康を考えることが重要だと思います。

津下:自分でしたいことがある。だから健康でいたいから、糖尿病のコントロールもがんばるわけです。糖尿病のコントロールを目的に生きているわけではない。医療者は逆転しやすくて、病気のコントロールが最終目的であるみたいに思ってしまう。
自分のやりたいことが、たかだか病気のためにやれなくなるのをできるだけ減らそう。そのために、将来を考えるというのが健康行動だと思います。
そして、私たち専門家は健診などのデータをみることで、今後の健康状態を予知することができるわけですから、将来にわたって主観的健康度が高い状態を維持するために、なにが必要なのかを話し合い、修正できることがあれば修正したほうがいいのではと助言することができます。

まちの健康づくりも同じようにとらえていて、将来にわたって、このまちで元気に住むにはどうしたらいいのかを話し合って、やれることはやっていこうというのが、「健康日本21(第二次)」だと思います。

最後に、これから「健康日本21(第二次)」を実践していく、行政の担当者やまちの健康づくりを進めていく専門職の方へ一言。

辻:以前は、中央政府が潤沢な予算を持ち、地方に補助金を出すというお仕着せがあったかと思います。いまはこうしたことは、だいぶ減ってきて、市町村が自分たちで考えていくという部分が増えてきていますよね。まちの声を聞き、そのまちの特性をいかす健康づくりはなにかを、「自分たちで考えていくこと」がなにより重要です。その辺はどんどんよくなってきているのではないでしょうか。ある意味プラスに考えると市町村合併のおかげでスケールメリットがでてきているので、地方自治体に多様なスタッフが集まってきているように感じています。

津下一代先生津下:今までもいろんな経験をしていると思います。今までの保健事業でうまくいったこと、いかなかったことなど話し合って、まず「見える化」してみる。「健康日本21(第二次)」をきっかけにいったん見直すことができるといいですね。
あと、保健師など専門職チームでかたまりすぎないこと。事務職の人といっしょにやると、いろいろな角度から検討できるので、自分たちのやろうとすることを客観視することにつながります。役所のなかに健康の大切さとか、活動をよく理解してくれるメンバーを増やしていくことは重要です。上手に予算をとってきたくれたりしますしね。チーム内で話し合うことも大切ですが、いろんな視野のひとたちといっしょに進めていくと、「まちの暮らし」という生活の現場とうまくつながれるネットワークができる、これが大事かなと思います。

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