特定保健指導を考える保健指導向上委員会


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インタビュー 最新号

早稲田大学スポーツ科学学術院教授
岡 浩一朗先生

1999年に早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了し、博士(人間科学) の学位を取得。早稲田大学人間科学部助手、日本学術振興会特別研究員(PD)、東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所) 介護予防緊急対策室主任を経て、2006年4月に早稲田大学スポーツ科学学術院に准教授として着任。2012年4月より現職。専門は、健康行動科学、行動疫学。

 
座り続けることの健康リスクとは?
健康づくりというと「体を動かす」ことに注目しがちですが、座り続けることの危険性について、岡先生は警鐘を鳴らされていますね。

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全世界で身体活動不足は死亡原因の4位、日本では3位と報告されています。WHOは「身体活動不足が大流行している(pandemicな状態)」とまでいっています。身体活動不足イコール座位行動の増加ではありませんが、その多くを占めていることは確かです。

身体活動による消費エネルギー量を1960年代と比較すると、これまで健康によいといわれてきた中高強度の身体活動量(運動)は、それほど減っていなくて、ちょっとした低強度の身体活動量が減ってきています。そして急激に増加しているのが座っている時間なのです。

世界的に見ても日本人の平日の座位時間は、最も長いことが知られています。
さまざまな研究調査からも、成人の1日の日常生活(覚醒時間)の3分の2(約55~60%)近くが座位や臥位で生活しています。ちなみに中高強度身体活動は5%程度、低強度身体活動は35~40%となります。
私たちはそんなに長く座っているんですね。座りすぎると健康にはどんな影響を及ぼしますか。
日本人を対象にした研究では、1日8時間以上の座位行動は男性の総死亡やがん死亡リスクをあげることがわかっています。
他にも心血管疾患の死亡リスクになることや、肥満、糖尿病、動脈硬化などのメタボリックシンドローム、高齢者なら運動器の機能低下をはじめ、肝疾患、肺塞栓、COPDなどの疾病リスクにも影響を及ぼしています。

こうした多くの研究が出てきていますので、座りすぎが健康へ悪い影響を与えるというエビデンスは確実といっていいでしょう。今後はどれだけ座っているとどれだけリスクが高いかという研究が進んでいくようになるかと思います。
ちなみに、海外の研究では、1日4時間以上のテレビ視聴による座りすぎは総死亡や心血管疾患死亡のリスクを上げ、1時間視聴するごとに平均余命が22分短くなるといわれています。
恐ろしい数字です。確かに座っている時間が長いですが、その代わりに、運動をしているからという人も多いと思いますが…。
そういう人を「アクティブカウチポテト」と呼びます(笑)。
ウオーキングやジョギングなど、比較的しっかりと身体を動かしていますが、他の時間はほとんどデスクワークなどで座りっぱなしという人ですね。
実はこのような人も、健康リスクが高いという結果が報告されているのです。最近の研究(レビュー)では、座りすぎによる総死亡リスクを低減させるためには、1日60~75分の中強度身体活動が必要といわれています。
座りすぎで、運動の効果が相殺されてしまうのですね。やはり、座りすぎを改善したほうがいいんですね。
もちろん、歩いたり、運動したりすることは、素晴らしいことで、やりすぎでなければ健康によいことは間違いありません。ただ、座りすぎによる健康リスクを下げることは大切なことですし、現実的に取り組みやすいのではないかと思います。

先ほどもお話ししましたが、日本人は座っている時間が非常に長くなっています。
全自動洗濯機、ロボット掃除機などの登場により、今まで体を動かす必要のあった家事がどんどん減ってきています。今や家の中では電気をつけるのもテレビのチャンネルを変えるのもリモコンでピッとしてしまえばいいですからね。

社会はどんどん体を動かさない便利な生活に「高価値」をおいて進んできているように感じます。それが結果として、必要以上に人から身体活動を奪ってしまいました。
確かに、「便利な生活」で体を動かさなくなっています。なかなかこの便利な生活を手放すことができないかと。

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こうした社会の流れを変えるのは容易ではありません。
とくに注目したいのが仕事に伴う身体活動です。1960年代頃と比べて、仕事時間での身体活動が減り、それに反比例して座位時間が増加しています。

社会構造が変わり、現在は働く人の6~7割がデスクワーカーで、その働く時間の6~7割が座位時間という結果が出ています。仕事内容も、電話やメール、パソコンで完結してしまい、その積み重ねでできてしまう。気がつくと、何にも体を動かさなくなる状態になっている、これが問題です。

「立つ」職場環境の整備とともに、個人、組織の意識を変えることも重要
仕事時間、働いている人は座りすぎているんですね。

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そうですね。でも解決策はあります。「座り続けずに、ちょこちょここまめに立つ」ことです。

立ち上がれば、そのまま直立不動ということはまずありません。首や肩を回したり、ちょっと体を動かしたりしますよね。トイレに行ったり、コーヒーを入れたり、窓の外を眺めに行ったりしてもいいかもしれません。できれば30分に2~3分、少なくとも1時間に5分の休憩として、立って少し動くのがおすすめです。そして、その休憩には、決してハードな運動をしなくてもいいということです。先行研究では、座位行動の中断による影響として、たとえば代謝機能に関して、低強度身体活動でも中強度身体活動とほぼ同様の改善効果があったという結果が出ています。

また、加速度計の発達からわかった研究なのですが、全体の座位時間が同じでも、連続して座っているか、頻繁に立ち上がる休憩を入れているかで健康リスクに違いがあることがわかってきたのです。
でもなかなか仕事の合間に立ってばかりはいられません。
立つことをより自然にできるような仕掛けを用意して、職場環境を変えるための働きかけを研究として行っています。

例えば、立って仕事ができるワークステーションやスタンディングデスクの導入。仕事内容にもよりますが、パソコンによるちょっとした仕事や資料を読んだりすることなどは立ったままでもできるものも多いのではないでしょうか。
立ったまま仕事ができる職場環境があれば、自然と座る時間は減ってきます。

もちろん、立って仕事をすることで、みるみる生産性が向上するということではありませんが、ランチ後の少し眠たくなる時間は、座っているより立って仕事をするほうが断然効率がよいことは体験的に理解してもらえると思います。

我々の研究室が行った研究では、就業中の座位時間と労働指標との関連を調べたところ、20~30代では座位時間が長いほど生産性(仕事の効率)が悪く、40~50代ではワークエンゲイジメント(仕事に対する熱心さや活力・意欲)が低いという結果が出ました。ほかにも座り続けていると、メンタルヘルスにもよくないという結果も出ています。確かにずっと座って仕事をしていると、夕方ぐらいに気持ちがどんよりして活力がないこと、ありませんか。多くの人が実感していることかと思います。
体を動かしたほうがいいのはわかっているのですが、疲れているとつい座ってしまいます。

私自身の考えですが、働いている人には家に帰ったときぐらいゆっくり休んで欲しいなと思っています。自分自身も休みたいなと思うんですよ、一日働いてきたら。
楽しみだったらいいのですが、仕事が終わってからジムに行く、歩くということが「しなくてはいけない」ことになるのは、少し辛い。ですから身体活動量の低下について、仕事の時間中にできるだけ解決することはできないかと考えています。

その仕事、座ってやらなくてはいけませんかという内容、たくさんありませんか。私の仕事でいえば、メールの返信や資料読みは立ってでもできます。ほかにも、ちょっとした作業だったり、研究のアイデアを考えたり。結構立ったままできますよね。
座って仕事をするだけでなく、立っても座っても仕事ができるという選択肢をつくることがいいのではないでしょうか。

ただ、いまの職場環境では、立って仕事はできない。自然にすっと立ち上がって仕事ができるオフィス環境に変われば、みんな立って仕事をすることができると思うんですよ。
オフィスが変わればといいましたが、スタンディングデスクを取り入れることだけでなく、職場風土というものも重要です。

面白い現象がありました。ある企業で、同じようにスタンディングデスクを取り入れても、多く人が立って仕事をする部署と、ほとんど誰も立っていない部署がありました。調査してみると、立っている部署は、立って仕事をしだした海外の人につられて、日本人も立つようになり、実際に立って仕事をするようにしたら、そのメリットを認識したことが影響したようです。スタンディングデスクが導入されれば、みんな立つというわけではないんですね。職場のムードづくりもかなり重要です。

このような介入成果のまとめによると、「立つ働き方」について、個人への健康教育で約15分、職場環境を変えると約70分、個別教育+職場環境+組織として奨励しているなどの風土改革を加えると90分、座位時間が減るという結果が出ています。
職場環境を整えるのは個人では難しく、事業所として環境を整えるとしてもお金がかかると思いますが。

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岡先生の研究室。
立つ働き方(研究!!)を実践している。

こうした職場環境への働きかけに関係する仕事には、オフィスをデザインする人、什器をつくる人、関連ソフトやアプリなどデバイス開発関係の人、たくさんの人や企業が関わっています。
通常、私たち研究者は、「健康になること」をどうしてもゴールと考えてしまいますが、こうした企業の方々は、「立って働く」をコンセプトとして「健康になるオフィス」を売り込み、オフィスを変えようとしています。世界中にオフィスがありますから、市場も多くあります。

こうした「健康になるオフィス」市場をみんなで協力してつくり、もちろん企業間の競争により、よいものをつくったりコストダウンしたりしていきながら、みんなで産業として盛り上げていこうという動きがうまれています。健康づくりだけでなく、利益をうむ市場開拓としての広がりから、オフィスが変わっていく。追い風なのは、いま国が掲げている健康経営、働き方改革、ストレスチェック制度などが、「健康になるオフィス」による改善点と直結していること。以前と比べて、企業側も職場環境の改善が受け入れやすいのではないでしょうか。職場環境が変わり、そのオフィスで働いていたら、いつのまにか健康になっていたという状況をつくりだしていけたらと思っています。

運動指導の新しい切り口として、まず「立つ」ことの啓発を
ところで、専門職として、「座り続けることの危険性」を保健指導ではどのように取り組んでいけばいいと思いますか。

これまでは、体を動かすスタートとして「歩きましょう」という情報提供が多かったと思いますが、座りすぎが危険であるという情報をぜひ伝えていただきたい。

私はもともと「体を動かしてもらいたい、運動してもらいたい」と思って一生懸命その分野の研究に取り組んできましたが、なかなかうまくいかない。近年は日本人の活動量がより下がってしまうという結果もありました。いくら運動がよいということが研究でわかっても、やってもらわないと意味がないという思いが原点にあり、そこへの解決策として、座りすぎる人が意識的にはもちろん、自然と立つようにしたいと思っています。

もちろん、歩いたり、運動したりしてもらうほうがいいことは確かです。ただ座り続けている人に、いきなり理想的な水準で体を動かしてもらうのは、かなりハードルが高いかと思うので、まずは立つことからはじめてもらうのがよいかと思います。

立つことが、次の行動がおこせる「入口行動(gateway behavior)」なのかなと思っています。座るから立つという行動に変わると、健康行動は連鎖していきます。いつもなら我先に空いている電車の座席に座っていたのが、「立つ」ようになると、夕方にぐったりしなくなって、少し立っていようか。次はひと駅分歩いてみようかというように変わっていきますよ。
保健指導をしている専門職の方にメッセージをお願いします。
保健指導の際に、「あなたは、仕事時間や移動中、余暇時間に1日どのくらいの時間、座っていますか?」という質問からはじめてみるのもいいかもしれませんよ。

運動しなくてはいけないことは多くの人は認識しているから、少し切り口を変えて、座り続けることのリスクを伝えて、まずは座り続けず、立つことを意識してもらえるようにできるといいですね。

保健指導や健康教育として、運動教室を開催するときに、運動の仕方を教えることが中心かと思います。運動だけ、歩くことだけを勧めるのではなく、それと合わせて座り続けることの危険性をぜひ伝えてほしいと思います。運動をしたと思うと安心してしまい、その他の時間は結構テレビを観続けたり、仕事中に座り続けていることが多いようなので。
保健指導や健康教室などの指導者の方には、「座りすぎは危険」を切り口に、さまざまな方法で情報提供していただければと思います。
最後に岡先生が取り組まれている研究について教えてください。
前述しましたが、社会は「便利」で「体を動かさない」ことを高価値として進んできましたが、私は、「楽しく」「自然」に「体を動かす」社会に変えていきたいと考えています。ゲームでも自然と歩いてしまう「ポケモンGO」の流行など、変化の兆しがあるのではと思っています。「楽しく」「自然に」「体を動かす」社会の創造に向けて、地域やコミュニティ全体へ「座りすぎは危険」をはじめ、健康づくりの普及を行っていきたいと思います。マスメディアの活用や健康教室の展開などを含めたコミュニティワイドキャンペーンなど、地域全体を対象に働きかけていくことが重要だと考えています。

たとえば、私が関わっている1つのプロジェクトとして、南伊豆町を世界一健康寿命が長いまちにするという長期プロジェクトがあります。南伊豆町は、土地柄防災に対する意識が高いのですがこれは防災教育の成果です。つまり同じように健康教育によりヘルスリテラシーの高いまちづくりができるはずです。

実際に南伊豆町は、楽園のようなところで、温暖な気候と温泉、きれいなビーチなど、素晴らしいコンテンツを持っており、これに健康長寿が加われば、より高価値なまちになることでしょう。こうした元気なまちが全国各地でできれば地方創生にもつながるのではと考えています。

また、早稲田大学を中心として、国内外の研究者と協力して、「座位行動に関する国際共同研究拠点」をつくっていきたいと思っています。ここでは、「コホート研究」「実験研究」「介入研究」を行い、エビデンスのある、座りすぎ防止のための有効な手段を開発していきたいですね。

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取材後記

南伊豆町の全体の健康プロジェクト構想(特別養護老人ホームや大学、継続的な調査等々)や今後の展開を熱く語られた岡先生。「これは研究者として果たすべき責任」という言葉が印象的でした。こうありたい未来に向けて、研究者でありながら実践者としての役割も担っていこうという気概に惹かれてしまいました。

ちなみに取材中も「テーブルの下で足を動かしてくださいね」と声がけしてくださいました!
取材後、我々編集部の者が、仕事中に立ち上がるようになったことは確かです。

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